三浦: でも実際、アメリカに住むようになってから最初の方は色々大変だったのではないですか? 後藤: 日本の高校に1ヶ月間だけ通い、高校1年生の5月からアメリカに住むことになったんです。 でも、そのまま停滞しているわけにはいかないので、英語は意識して勉強し始めたんです。徐々に環境に慣れるにつれ、今の親友に出会ったり、素敵な先生にも出会いました。 そこから学んだことは、やりたいことは全て自分から行動していかないと何も得られない国がアメリカなんだなということでした。 当たり前のことかもしれないですが、待っているだけではチャンスは来ないですし、動かないともはやそこにいることも忘れられてしまうような。 三浦: アメリカ人は言いたいことをきっぱり言うねと言われていますが、そういう文化が根底にあるからかもしれませんね。 後藤: 気づけば環境に馴染み、高校生活でたくさん揉まれ、成長できたと感じていたので、次からは「小さなステップじゃなくて大きく歩んでいきたいな」と思ったんです。 三浦: 既に十分大きく歩んでいる印象は受けますが(笑)。どういうことをしたのですか? 後藤: 自分にはリーダーシップが足りないなと思っていたので、Honor’s Society(オーナーズソサイエティ)というグループに入ってボランティア活動をして、そこでの活動を通してどうやってコミュニティを作り、どのように自分が貢献できるのかを学んでいきました。 また、クラブを3つ掛け持ちし、その全てで部長を務め、Student Governmentという日本でいう生徒会で、ソーシャルメディアを統括するオフィサーを務めました。 同時に、通常1学期に18単位しか取れないところを教授に直談判(笑)しに行き、推薦書をオフィスの人に書いてもらうことで、21単位分の授業を取り、全部並行して活動していました。 三浦: その時から行動力というか、取りに行く力が並ではないのだなと感じます(笑) 後藤: いつも走っている印象らしく、「ゆったりと歩いている香奈を見たことがない」とみんなに言われます(笑) 母にも最近「あなたはいつも走ってるよね。でも、走ってる時が一番デザインや作品がいいよね」と言われたのですが、自分としてもそう感じていて、走っている時こそが本来の私だなと思ったりするんです。 三浦: 疲れたり止まったりする時はあるんですか? 後藤: 疲れている時は詰まっている時です。それが一番フラストレーションです。 詰まっているものが多い上に時間がないのはもちろん大変ですが、大変と感じる以上に楽しいと思えることを重要視するようにしています。 少し前まではもし目の前に『大変だけど実りがある』、『楽しいけど実りがある』2つの選択肢が出てきた場合、前者を選んでいました。 なぜかと言うと『大変=努力』だと思って、努力した人こそ技術や思考も高まるのではないかなと思っていたからです。 でも最近は、『楽しく努力して高めることが一番だな』と思って、その道を選ぶようにしています。そしたらいいことがいっぱいあったんです。 それに、自分を信じる力も強くなってきて「私が選んだからこの道で大丈夫」と思えるようになってきたんです。 三浦: たしかに、何かを選ぶ際に一番大事なことは結局自分が信じられるか信じられないかだと思います。 後藤: そう思います。あとは、色々な人に会って精神的にも強くなって、色々な価値観に触れてこそ判断ができるようになったのではないかなと思っています。だからこそ、周りの人には感謝を忘れないように生きることが一番大事なことだと思っているんです。 また、私は心のバイブルみたいなのがあります(笑)。2冊の本なのですが、新渡戸稲造の『武士道』とジェームズアレンの『原因と結果の法則』という本です。 三浦: どういうきっかけで出会って、何がバイブルとなって今も支えてくれているのですか? 後藤: 武士道は小学2年生の頃、学校の図書館の漫画伝記コーナーのようなところす。そこで新渡戸稲造を発見してから、ずっと読んでいました。 10歳くらいの頃に、実は父が武士道の本を持っていることに気がついたんです。 でもそれは少し難しく、理解には時間を要しましたが、何回も繰り返すうちに徐々に理解し、気がついたら内容に共感できるようにもなってきて、今はすごく大切な本で私にはなくてはいけないものになっています。 何回も繰り返して読むので、ものすごくボロボロなのですが、何かに迷った時は今も見返すようにしています。 その本は私に一番寄り添ってくれているものだなと思います。 三浦: もう1冊の本はどうしてバイブルになったのですか? 後藤: バレエをやっていた時に通っていた、鍼の先生と話していた時に出会った本です。 先生に悩みを相談していた時期があったのですが、話をしていくうちに先生が「あなたの考えはとても大人びているからこの本を読んでみるといいよ」と言われて渡してもらったのがその本だったんです。 それが出会いでした。 本には、宇宙的な考えをしましょうということが書いてあって『木を見て森を見ずではなく、本質は木ではなくて森であるのだ』ということを教えてくれました。 目の前だけ見ているから小さな障害に悩まされるのであって、必要なのは自分を第三者として俯瞰して見るということです。 それができた時に心は救われるというようなことが書いてあったんです。その教えにはすごく救われて、今も何回も読んでいます。 この2つの本は私の人生には欠かせないもので、心の励みになった本たちです。 三浦: いつも頑張っている姿を見ていますが、何かモチベーションがやっぱり根底にはあるのですか? 後藤: モチベーションはないです。というより、作っていないです(笑)。何て表現するのが適切かわからないですが、たしかに辛い時に自分を自分でプッシュしないといけない時はあります。 でも、頑張っていて、今が最高だって分かっているのに「もっとやらなきゃ。もっと頑張らなきゃ」となった場合、もっと自分に負荷がかかってしまうと分かったんです。 実は「建築は本当に自分に合ってるのかな。どうなのかな。」と考えた時期もあります。 でも思ったのが、それを考えても仕方がないから、「目の前のことを一生懸命やろう。今一番興味があるのは建築だから」と思って建築に本気で向き合ってみたんです。 そしたら純粋に楽しくて、気がつけば自分の作品に没頭していて、自分の作品に関しても全て口頭で説明できるほど思いが込められたんです。 モチベーションなどでなく、体が勝手に動いている感じです。 三浦: 夢中になることが一番のパワーだと思います。 後藤: でも、その時はやりたいことに対してテクニックがある程度追いついていたので思いついたことが実現できるようになってはいましたが、それまではもちろん大変でした(笑) ただ、継続が大事だなと思ったのはちょうど先日、 学校の代表者だけがプレゼンできる大きなイベントで、自分のセクション(100人くらいの生徒を15人くらいの研究テーマに沿ったグループに分けたもの)の中から2人選ばれるセクションがあったのですが、そこでノミネートされたことでさらに強く思うようになりました。 三浦: おめでとうございます! 後藤: ありがとうございます。それはやっぱり、楽しんだからだなと思っています。自分が楽しんだものは人に伝わるんだなと思ったんです。もちろん、楽しいだけでなくてしっかりと突き詰めたモノです。 四六時中考えて突き詰めたモノは後々バリューに変わっていくんだなということも同時に確信しました。 そのためか、実際ノミネートされた時は正直あまり驚かなかったです。 自画自賛などでなく、自分の作品を心から楽しんで自信を持てたものだなと思えたので、結果も納得がいくものになったという感じだったんです。 それを取れたことで一喜一憂していたらそこまでの人間だなと思っています。 なぜなら、私の目標はノミネートされることではないからです。 一喜一憂しているということは今やっている努力は全てそれを取るためだけのものということになってしまいます。 三浦: 通過点ということですね。 後藤: もちろん嬉しいですし、先生が選んでくださったこと本当にありがたいことだと思っています。 …とは言ってもメールをもらって1時間半は喜びを噛み締めていました(笑) 三浦: (笑)。しっかり感情に向き合うことは大事なことだと思います。でも、先々にもっと大きな目的があるからですもんね。 後藤: いい意味で冷静になるのが大事だと思います。それこそ木だけでなく、森を見ることだと思っています。 また、今年の私の抱負は木を見て森を見てさらに山を動かすことです。 三浦: 今年の5月に卒業してからはニューヨークに大移動ですもんね。 後藤: 久々、全く新しい挑戦かなと思っています。 でも、ニューヨークに建築の知り合いが一切いないため、もし事前に現地の方と知り合えたら、もっと明確に道筋が描けるかなと思っているため、カリフォルニアにいる間にたくさんのプロフェッショナルな方に限らず現地のことをよく知っている方と知り合えたら光栄です。 三浦: これからの動きを聞ければ嬉しいです。 後藤: バークレーを5月に卒業して、ニューヨークには夏に引っ越そうかなと思っています。そこからはOPTで1年間ニューヨークで働いて、その間に大学院にアプライしたいなと思っています。 また、大学院に行っている間にもインターンをしたいなとも考えてます。 やるべき努力をしていればチャンスはいずれ巡ってくると信じています。 三浦: 個人的な質問なのですが、なぜニューヨークなのですか? 後藤: ニューヨークで建築のライセンスを取りたいなと思っているんです。 でも、一番大きな理由は第一志望の大学院がハーバード大学だからです。第二志望はコロンビア大学なのですが、それらはどちらも東海岸にあるため早くから環境に慣れたいなと思っているんです。 だから今から身を移してしまおうと思っているんです。 三浦: やっぱり本の影響が? 後藤: 単純に、大学院を目指すのであれば世界一を目指そうと思ったからです(笑)。 友達0人、英会語できない。アメリカでの高校、コミカレ、バークレー生活
移住して、がらっと環境も変わり、最初は馴染むことに苦労しました。英語は話せないですし、友達も全くいなかったので。人生に寄り添う2冊の本
UCバークレーで建築を学ぶ現在
これから始まる新しい挑戦