目次
ConnecPathの事業について
——現在はチャットボットにたどり着いていますが、そのきっかけは何だったのですか
最初はアスデッサンを本業にできないかと考えたこともありました。
ですがアスデッサンは、社会人が二足の草鞋を履いて運営することで、当たり前の職業人を生徒に見せられるという強みがあり、本業でテクノロジーを使ってどんどん大きくして行くような戦略を取り入れた場合、逆に今まで築いてきたものを壊してしまうのではないかと思い至りました。
また、テクノロジーの中にもハイテクとローテクがありますが、どうせやるなら最先端の技術がいいなと思い、結果、流行りではあるのですが、AIの波が来ているのもあり、AIで行くかと。
こうした、やや飛躍のあるロジックで、まずAIでやることを決めました(笑)
ピッチでチャットボットと出会う
ミシガンMBAに留学している時に、とあるピッチイベントがあったので、生煮えではありましたが、AIでキャリア教育をやりたいと試しに言ってみたことがあります。
その時に思いついたビジネスモデルを並べてみて、「AIでこんなことをやりたいと思っている!」とすごくざっくりプレゼンをしていたんですね。
そしたらある人が「AIって、具体的にどういうもの?」と質問してきたのです。
生煮えだった部分が多く、AIのことを今よりは詳しく理解もしておらず困惑していると「それは例えばチャットボットのようなやつ?」と質問され、「う、うん、そうそう!」という非常にくだらないことからアイデアは出発しました(笑)
その時は土壇場で答えてしまいましたが、それから本気で気になり始め、チャットボットが何かを真剣に調べているうちに「面白い」と感じ始めたのです。
実はチャットボット以外にも、もう2個ほど別の手法があったのですが、同時に走らせていく中でマーケットを調べ、お客様が誰かをしっかりと考えてたのと同時に、自分自身がインターンとして問題の実情を見ていく中で最終的に残ったのがチャットボットだったのです。
ConnecPathはチャットボットを使った教育プログラムサービス。生徒は学校に関する個別な質問や、カウンセリングといったようなものを受けられる。”誰もが環境を選べるように”という思いで作られ、最近はiOSアプリ、Androidアプリも出された。
サンフランシスコへ来て
——スタートアップハウスへ移られていましたが、ミシガンではなくサンフランシスコなのはやはり起業文化が盛んだからですか
起業する観点からすると、アメリカの中でもここだけが格段に違って、何もかもが集積している印象ですね。
集積はとても大事だと思っています。
MBAで習ったことの1つで、今でも大事だなと思っているのですが、ナレッジスピルオーバーという考えがあります。産業、資本、アカデミックなど、集積が発生すると、ナレッジが溢れ出ていく。
この「溢れる」というのがすごく大事です。
多くの人がよく言うのは「サンフランシスコには気をつけろよ。アイデアがすぐ盗まれるから」と言うのですが、的を外している点は少なくないなとは感じています。
たしかに、盗む人も中にはいないこともないかもしれませんが、どちらかというと盗むというより、ついポロっとこぼれてしまうナレッジを拝借して学びを得るというか(笑)
スタートアップハウスでも「こんないいことがあってさ!」という話が出ることは少なくありませんでしたが、そういう話ほど、ネットやSNSに書けるものではありませんでした。
結局、いい話ほどFace to Faceで出てくるのだと思います。
これはインターネットがどんどん普及しても、SNSからクローズドグループができて、さらにそのクローズドグループも大きくなってきたらまたもっと小さいものができていくという感じで、いい話ほどみんなおおっぴらにシェアしたくないという人間の性だと思うんです。
結局『際どい話でスレスレだけどそれすごい!』という話はスモールグループでしか発生しないのです。
ここでも同じことが起こっていて、例えばグロースハッキングでも成長するためにはこうするのがいいという話も、ネットにかける話もありますが、際どいけれどすごくいいというのもやっぱりあって。
投資家もやっぱりそうで「ここだけの話、僕の経験だったらこうだったよ」という話も聞けたりするのです。
たしかに結局貴重な情報というのは小さなコミュニティでこそ発生していると思います。ハッカーハウスメンバーでサッカーをした時の写真
また、ピッチイベントでもオーディエンスの舌が肥えているんですよ。
たくさんピッチを見ているからです。そのため、すごく鋭い質問をガンガンしてくる人が結構います。
たまにグサっとくるのもあるのですが、そこの部分が足りなかったなと学びを得ることができるのです。
また、資金調達に関しても限られたお金に大勢の人がたかり、その中で選ばれなきゃならないという競争環境の中で磨かれていくものがあると思っています。
また、その中の困っている者同士で仲良くなったりもします。
その会話の中で「これ知ってる?」と聞かれ「それすごいね。じゃあ僕からも教えてあげる」といった具合で、お互いの最終兵器の交換のようなことが起こっていくのです。
人も何もかもが集積しているからこそ、それが起きるのだと思います。
最近は、友人に紹介してもらった人がすごい人で、その奥さんも著名VCのところの人で、さらにすごいなとなって。
そういう出来事や人たちがどんどん深く繋がっていくからこそ、こっちにはエキサイティングな環境があると思いますね。
1回繋がると、繋がりが連鎖して楽しいですよ。
それが1回はまるとやめられないです(笑)サンフランシスコを選んで本当によかったですね。
——これからはサンフランシスコで勝負を仕掛けていくのですよね
もちろんです。できることなら永住してやっていきたいですね。
とはいっても、嫌いなところもいっぱいありますけどね(笑)
夜は特に治安が悪いし、注射(ドラッグ)を打って正気を失ったホームレスも多いし、窃盗も日常茶飯事です。
そういう意味での生活のし辛さみたいなものはありますがビジネス環境としては世界最強のところだと思います。
他のスタートアップ集積地と言われるテルアビブやエストニアなどを直接見たわけではないから完全な比較はできませんが、みんな最強だと言っているし、そうだと思っているので、その環境に身を置けているというのは幸せなことだと思いますね。
どういう世界を創っていきたいのか
——僕も高校から教育に疑問を持ち、ものすごく関心を置いています。その中で真田さん自身が選んだエドテックという観点から、これから創っていきたい世界を教えてください
まさに今ConnecPathがやろうとしているのは、英語でいうと、College and career readinessを高めることです。
そのためには、情報とモチベーションを10代の子達があまねく得られるインフラを作ることが重要になって来ます。
情報というのは非常に無味乾燥としたものですが、その無味乾燥としたものがいっぱいインストールされているかされていないかで考えられる量が決まると思っています。
人間は『We don’t know what we don’t know』だと思っています。つまり、知らないものは考えることができないのです。
もちろん、ものすごくイマジネーションがある人であれば知らないものを想像することができるかもしれませんが、できる人なんてほんの一握りに過ぎないと思っています。
だからこそ、既に世の中に存在する情報で、非常に有用なのに、知らないというのはなくそうと考えているんです。
シュンペーターという、イノベーションの父といわれる人も「既存の情報を組み合わせたことで生まれるものがイノベーションだ」と言っています。
そのように考えると、イーロンマスクが火星に行くと言っていることについて、世間は「イノベーティブだ!」と言いますが、スペースシャトルというテクノロジーは昔からあったものだし、NASAが随分前から火星有人探査なんて考えていたでしょう。
ですが、スペースシャトルの作り方を変えて民間会社でも挑戦するという、「スペースシャトルx火星xNASA」じゃなくて、「スペースシャトルx火星x民間会社」にしてしまった、この組み合わせがイノベーティブなんですね。
革命的な発明はここにはないんです。
だから、当たり前のようなことでも、知っていること、つまり情報量が絶対的に多いことが大事だということなんです。
教育の文脈で言うと、例えば文理の選択の時に、世の中にはすごいエンジニアがいて、数式的な発想でかっこいいものを作っていることをとある高校生がすでに知っているとしましょう。
数学を頑張ったら格好いいエンジニアになれることを知っていたら、がんばろうと思うかもしれないじゃないですか。
でもそういう人がいることを知らなかったら、「数学苦手だから文系」みたいな発想で物事選んでしまったりするんです。
大事なのは、知っているか知らないかなんです。
ConnecPathのApp。学生は質問を共有しそのトピックに関するチャットボットを訓練することができる。チャットボットがどんどん賢くなり、生徒が必要とする回答をカウンセラーのように答えてくれる。
ーーモチベーションに関するお考えをお聞かせ頂けますか
知った上で次は感情の話です。琴線に何が触れるかというのは人によって違います。
消防士に憧れる人もいるしカフェのオーナーになりたい人もいるし、エンジニアになりたい人もいます。
でも、そこにあるストーリーみたいなものを聞けないと、やっぱり人間、モチベーションが湧かないじゃないですか。
カフェのオーナーという仕事について考えてみましょう。情報として、カフェの経営が、どういうものかを知ってはいるものの、特段憧れもしない高校生がいたとします。
彼がとあるきっかけでカフェのオーナーと話す機会があり、どういう考えでこのレイアウトにして、どういう苦労があって造って、何がきっかけで彼がカフェを作りたかったのかとかっていう話を聞くと「カフェのオーナーってすごくかっこいい」と思うかもしれません。
そのかっこいいと思った、ゾワっとした感覚がいわゆるモチベーションだと思うのです。
まずはその情報を知らないとそれになりたいと思うことはできないですし、なりたいと思った時に方法がわからないから目指せません。だからまず必要なのは情報だと考えています。
また、目指す上で最後人間馬力が出るところは感情が触れているところです。
しかし、それらの感情の部分が同時に重なる機会は多くはないので、できる限り多くのチャンス、それこそ『蜘蛛の糸』をたくさん垂らしたいという思いがあるのです。
チャンスがたくさんあれば、みんなが何か1つは心からやりたいことが見つけられるだろうと思っていて、そういう世界観を創りたいと思っていますね。
——名前の由来もそういうところからなんですよね
一人一人がいろんなことにコネクトしていく道を作っていきたいと思ってConnecpathと付けました。
ネーミングの出発点はアスデッサンとほぼ一緒ですね。
「アスをデッサンする」というのと「道をつなげていく」という思いの根幹は一緒で、やりたいことは昔から変わっていないなとやはり思います。
——今スタートアップを立ち上げてすぐだと思うのですが、苦労することや、これが一番スタートアップに大事だなと思うことはありますか
順を追って変わっていくものなのかなと思っています。
何もなかった時はプロダクトを何にするかというのが悩みでした。
次は、これを作りたい!というものが決まり、作ろうとするけれど作り方がわからないという悩み。
外注でできなくはないけど、お金がかかるので継続性がありません。
となったら、作る仲間が必要になったので、どうやったらCo-founderを見つけられるのか、どうやってみつけようという段階が次にやって来ます。
しかし、そう簡単には見つからない。ここにまた次の苦労がありました。そして幸運にもCo-founderが見つかりました。
また、Co-founder探しと並行して、一度だけにしようと心に決めて、アプリ制作会社に最初のプロダクトだけ外注し、途中まで制作が進んでいるアプリがありました。
そのため、Co-founderも見つかり、ほとんど完成しているプロダクトがあったので、見込みユーザーと会話だ!となり、カウンセラーに勇んで会いにいったのですが「実際のアプリを使ってみないと何とも言えない」と。
完成したプロダクトが手元にない。さぁ、どうやって1日でも早く完成させられるかというのが次の課題になりました。
そして、10月に製品ができました。それはもう嬉しかったですよ。
そして「実際に使ってみないとわからない」と言った学校関係者の方に「完成しました」と持っていったところ「他校で導入実績のないものはうちでは扱えません」という対応。
そうくるかと思って他にも必死に営業はしているのですが、無料のアプリなのにお客が見つからないという段階です。
次にはまた、資金調達や、採用が中々進まないことや、望ましくないemployeeが入ってしまった時に、どう解雇するのかというハードな課題に直面することもあるでしょう。
そのように苦労のポイントは流転していくと思うので、唯一の課題はなく、それ時々で変わっていくものなのかなと思っています。悩みは尽きないものだと思いますね。
ありがとうございました。最後にはなりますが、メッセージをお願いいたします
“失敗”というものはあまりないと思っています。
仮に会社が倒産したとしても、会社が倒産するその最後の1日まで命がけで経営して、潰れたあと誠心誠意ちゃんと投資してくれた人たちに事の顛末を説明して、失敗の経験を次の行動にきっちり生かして行く。
こうした姿勢を貫く事で、自分も、投資家も、客も、そのハードな経験をしっかり糧にして、前進ができるのだと思います。
そういう意味で、会社の清算=失敗と決めつける必要はないと思っています。
潰れたあと、どうその経験を生かすかの方がもっと大事なのかと。
あとはいろんな人が言うには、諦めないで続けることでどこかで勝つ時が来るということです。
勝つのを諦めた時に失敗するのだと。
もちろんいろんな理由で事業をたたまなければいけない理由はあると思うのでその時は仕方がないです。
でも、もしそうなって、世間には失敗と言われるかもしれないけれどそれは最初の通り、必ずしも失敗ではないと思います。
また、事業自体が鳴かず飛ばずでもいつか飛ぶ時があるかもしれないため、そういう意味で失敗は認めなければ失敗ではないということです。
そのため、もはや挑戦して悪いようには絶対にならないなと思うのです。
挑戦したい人がもっと増え、自分の人生にコミットする人が世の中に価値のあるものをもっと生み出して行く社会になっていったらいいなと思っています。