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海外への決断 ~スタンフォード大学でエコーを次なる革命的医療機器へ~
ーースタンフォード大学での活動を教えていただけないでしょうか
PM&R科という、手術を必要とせずに人間の運動器をどう治す診療科(Physical Medichine and Rehabitation)に所属し、実際の現場で研究をしています。
実はうちの教授が疲労骨折でのアメリカの権威なんです。そこに、私のエコーという強みを合わせて今は進めています。
疲労骨折は、例えばランニングをしすぎて体が疲れ、その結果骨が折れるような現象のことを言うのですが、そこには様々な疑問が浮かび上がります。
例えば、なぜその人は筋肉が切れずに骨が折れたのかなどということです。しかし事実として骨が折れているため、そこにだけ注目されがちです。
疲労骨折は普通の骨折のようにパキンと折れるのではなく、じわっ折れ、そのヒビや折れ目というのはものすごく細かく、レントゲンでは見逃されがちで、MRIを取ってやっと分かるくらいです。
見逃しを逃すために、すべての患者さんが MRIを使えば見つかる確率はグンと上がりますが、 MRI というのは非常に高価なもので、予約から実際の撮影まで何日も前には、時には何ヶ月も待ち時間がある検査です。
そのため、そこに支払うお金に余裕がない人たちはどうするのかという点が課題となり、すべての人がその診療は受けられるべきだという動きがあります。
また、私たちが技術やサポートできる範囲が広くなれば、骨折が大きくなる前に見つけられることができるという意味で、エコーを使って素早く正確に、そして安価に判断できるように取り組んでいます。
約0.2mmの骨膜を映し出している。
ーースタンフォードに来る際の研究テーマや目標は何だったのですか
救命センター時代に、エコーがたくさんの命を救いうるという可能性に気が付きました。
それまでは、エコーがこれほど役立つツールだとは知りませんでした。
例えば、患者さんが運ばれてきた時に心臓マッサージなどを行いますが、そのような状況の現場はものすごく緊張度が高いです。
そういう時にまた、注射を打たなければならない場面というのもあるのですが、その注射を正確な位置に打つことは血管がどこにあるかが見えず、非常に難易度が高いんです。
しかしエコーを当てることにより、体の中を一瞬で透かし、どこに血管があるのかを見ることができます。
MRI などの高額なスキャニングではなく、エコーであれば手軽に誰しもが受けられます。自分の腕さえあればそういう人たちを救えたという経験が今後の運動器の治療にも大きく影響することになります。
スタンフォード大学での研究の成果
ーーAMSSMでの受賞のご連絡を受けた時、僕も心から嬉しかったです。おめでとうございます!
ピッツバーグ大学への移籍の為、楽園だったカリフォルニア州のベイエリアからピッツバーグへ引っ越して2週間ほど経った頃です。Stanfordの教授や同僚たちが興奮して連絡をくれました。
一体どうしたのか、と聞くとアメリカで最大のスポーツ医学の学会から連絡が来たというのです。
私達が省略して呼ぶAMSSMはThe American Medical Society for Sports Medicineという主にスポーツ医学の医師を対象とした学会です。
私がスタンフォード大学を去る直前に応募した研究助成が、2018AMSSM Foundation Research Grant Awardを受賞したのです。
2017年の12月が応募締め切りだったので、同時期に完成した私の論文をそのまま提出したのです。まぁ、ダメ元というやつですが、出さないよりは出す方がチャンスがあるかもしれないといいうことで出してみたんです。
そしたら、まさかのまさかです。
初めてのアメリカで、初めてのスタンフォードでの研究がこのような賞で締めくくれて、これ以上ない感動でした。
でも、私は賞を狙ったというよりは、普段の日常診療で、疲労骨折に悩む患者さん達を心身ともに励まし熱心に治療をされる教授のパッションと、私も彼らを救いたいというプロとしての根性を融合させただけなんです。
まさに、ハーモニーです。
また、初めての外国生活ですから同僚や友達が本当に言語の面で助けてくれました。
その代わり私は同僚には超音波の技術を提供し、友達には何か『面白いこと』で恩を返したつもりです(笑)
いずれにせよ、1人じゃ何にも出来ないので誰ひとり欠けてもいけないチームワークで勝ち取った賞だと言い切れます。
皆への感謝は一生忘れません。
カリフォルニア・スタンフォードからピッツバーグへ ~医療の最先端で戦うこれから~
ーー現在、1年半スタンフォードにて活動されていますが、これからのご計画をお聞きしたいです
幸いにもご縁があって2018年の2月からピッツバーグ大学のPM&R科と整形外科が共同で持つ運動器専門の研究室へ籍を移しました。
研究には医療の現場で実際の患者さんと一緒に研究を進める臨床研究と、細胞レベルで謎を解明していくという基礎研究があります。
実は、運動器に起きる問題は現在でもほとんどが細胞レベルでは未解明なままで、古くから信じられている治療を信じて続けられている現状から、その謎をちゃんと解明したいんです。
原因が分からないため治療法もよく分からないままです。研究はミステリーです(笑)
成功も収入も何も保障されない旅です。誰だって目に見えないものに恐怖を感じると思います。
でも、それが楽しめる人と楽しめない人がいて、楽しめる人は研究に向いているのだと思います。
結局、思い返すと子供の頃にスポーツを通じて感じたそのままが、今なんです。
例えば、毎日10 km走ると足が痛くなる人と、毎日50 km走っても平気な人がいます。実際にその人たちの骨や筋肉や腱がどうなっているのか、体の中の事は外から見てもよく分かりません。
ではいつから怪我になるのか、その境界線や限度がもし見えたら体に無理をしない条件で運動を楽しめるようになりますよね。
ピッツバーグでは関連の実験が細胞レベルできます。例えば2種類の細胞があって、怪我をしている細胞と健康な細胞に、負担をかけ続けたとします。
それらを後から比較することにより、筋肉や、関節、骨の状態がいつから変わり始めるのか、それらが悪い状態になる前に、どういった対策を打てばいいのかということを解明できれば、それは新しい予防法になります。
そして、いったん怪我してもどの治療法が効果的なのかも検証出来ます。
人間には自然治癒力が本来あります。それなのになぜ治らないのか、という点がよく分かったうえで、足りない物だけを補う治療法へと繋がるはずです。
ただやはり、大きな怪我になる前に本当はみなさんに止めて欲しいんです。
100点満点の手術でも、どんな最先端の治療法でもやはり、神様に与えられたオリジナルの体には勝てないからです。
だから私は外科医を降り、体が悪くなる直前で注意喚起をして、人間の美しいオリジナルの姿というのを保てる取り組みをしたいと考えているんです。
人生長いですし、生きるのであればみんなが各々幸せに楽しく生きて欲しいですもんね。
21世紀の世界経済成長の最大のエンジンが医療産業であることは衆目の一致するところである。その医療産業を核に地域再生繁栄の成功例として米国のピッツバーグが注目されている。世界中から医療関連の人材、企業、資金、患者が集まるピッツバーグの医療産業集積で中核事業体となっているのが、UPMCの略称で知られるピッツバーグ大学医療センター(University of Pittsburgh Medical Center)である。UPMCはピッツバーグの政財界・学界が一丸となり、計画的に創られた事業体である。
医療産業集積ピッツバーグのビジネスモデルUPMCより引用
最後にこれから挑戦したいことがあるけれど周囲を気にして一歩進めない人に対してメッセージをお願いします
人生の大半を日本で生きていく中で、抑圧を感じる瞬間が結構あったなと思っています。
ネガティブな意見が多く、例えば無理だよとかどうせやってもうまくいかないよとかという声が周りからも聞こえた時期もありました。
また、2年前くらいにはアナと雪の女王が流行ったと思います。あの時期は街中でエルサの格好をした人が少女たちをよく見かけました。
その子たちが「エルサになりたい」と言った時、大人達は賞賛し、応援する声をかけます。
しかし同じようなセリフを大人が言ったらドン引きで、何故かものすごく否定を感じるような雰囲気に苛まれる風潮があるなと感じていました。
だから私は、そういうのはいらないな、という気持ちを強く持っていました。何より私はそれをネガティブに捉えないようにしています。
私は「変わってるね」言われてることが多かったです。つまり、周りからは変人として扱われているということです(笑)
でも、そういう声はむしろ応援とか、目立っているとか、この声を未来的には賞賛に変えてやろうと自分の中で変換することにより、パワーに変えていました。
そういった、ハッピー変人を増やすことも私が望む未来の一つかなとも最近思うんです。
子供の頃のような、優越感も見栄も嫉妬もないシンプルな感情を持ったまま生きるハッピーな人が増えればそれだけで社会は大きく変わると信じています。